「はかり」って精密機器なんだよ?

TVなどで、リンゴの選果場の映像を見たことがあるでしょうか。
コンベアのラインにちょうどリンゴ一個分の皿が設置されており、リンゴがそれぞれの枠のところにくると皿がカシャンと倒れて選別されるというものです。
この手の選別機は重さで分類していまして、それぞれの枠に設定された重さ以上のリンゴが転がり落ちる仕組みになっています。
近年の選別機は枠の上流で一回だけ重さを量り、その値に応じて対応する枠のところで電気的に皿を倒すという構造になっています。
しかし数十年前に設置されたような古いタイプでは、選別枠のそれぞれに天秤はかりが設置されており、はかりに乗せられた分銅以上の重さのリンゴがくると天秤が動いて皿が倒れるという、機械式のものもあります。

先日、とある食品系のお客様から後者のような機械式選別機の点検をしてほしいという依頼がありまして、私が行ってくることになりました。
# 実際に見てきたのはリンゴの選別機じゃないよ

んで見てみたんですが。
まともにメンテナンスされていない古い機械ということもありまして、信頼性を担保できない状態だということが触ってすぐにわかりました。
一つのはかりに分銅を設定し、同じ重さのダミーウェイトをいくつかの皿に置いてみたら倒れるもの倒れないものが出てきたり。
ならばと思って一つの皿に対して倒れる閾値を取ってみたら、閾値がばらついていたり。
それでも確率論的に閾値を求めてみたら、数時間後には閾値が変わっていたり。
いやー、天秤も皿も信用できやしねぇorz
いかに無体な使われ方をしていたのかがよくわかりました。


さて何人かの方と話をしてみて驚いたんですが、「はかり」が立派な精密機器であることはほとんど認知されていないようです。
確かにはかりの構造は単純で、部品点数も非常に少ないです。
しかし、そのそれぞれが高い精度で作られ、緻密に組み合わさっています。
そして要素の一つでも破損すれば、はかりの信頼性は格段に落ちてしまいます。
たとえば天秤ばかりの場合、支点にちょいと傷を入れるだけで精度がガタ落ちになります。
というか、再起不能ですね。
小学校の理科で、上皿天秤を片付ける際には皿を片方にまとめるように教わったと思いますが、これは支点をすり減らさないためです。

はかりは公正な商業活動をする上で最も重要な機器の一つです。
それ故に、その精度を保証する「計量士」になるには国家資格に合格しなければなりません。
年間200人程度しか合格者がいないと聞きますから、非常に貴重な資格かもしれませんね。


以下余談。
私は計量に関する専門的な勉強をしたことがありませんが、先述の機械に対しては意外にもアプリケーションテスト技法が役に立ちました。
真値がわからないものに対して値の範囲を狭めていくあたりは、レガシープログラムに仕様化テストを適用している気分でしたね。
はかりも皿も信用できないことがわかってからは、メモリリーク箇所の探索の様相を呈していましたが。